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「放射線の健康への影響」参考人陳述 児玉龍彦

児玉龍彦さん(東京大学先端科学技術研究センター教授 東京大学アイソトープ総合センター長)の2011年7月27日 (水) 衆議院厚生労働委員会での参考人意見陳述です。

私は東京大学アイソトープセンター長の児玉ですが、3月15日に大変に驚愕いたしました。
私ども東京大学には27か所のアイソトープセンターがあり、放射線の防護とその除染などの責任を負っております。それで私自身は内科の医者でして、東大病院の放射線施設の除染などにずっと数十年かかわっております。
3月15日に、ここの図にちょっと書いてあるんですが、我々最初に午前9時ごろ東海村で5μシーベルトという線量を経験しまして、それを第10条通報という文科省に直ちに通報いたしました。その後東京で0.5μシーベルトを超える線量が検出されました。これは一過性に下がりまして、次は3月22日に東京で雨が降り、0.2μシーベルト等の線量が降下し、これが今日に至るまで高い線量の原因になっていると思っています。 それでこの時に枝野官房長官が「さしあたって健康に問題はない」という事をおっしゃいましたが、私はその時に実際はこれは大変な事になると思いました。
何故かというと現行の放射線の障害防止法というのは高い線量の放射線物質が少しあるものを処理することを前提にしています。
この時は総量はあまり問題ではなくて、個々の濃度が問題になります。ところが今回の福島原発の事故というのは100キロメートル圏で5μシーベルト、200キロメートル圏で0.5μシーベルト、さらにそれを超えて足柄から静岡のお茶にまで及んでいる事は、今日みなさん全てがご存じのとおりであります。 我々が放射線障害を診る時には総量をみます。それでは東京電力と政府は一体今回の福島原発の総量がどれくらいであるか、はっきりした報告は全くされておりません。
そこで私どもはアイソトープセンターのいろいろな知識を基に計算してみますと、まず、熱量からの計算では広島原爆の29.6個分に相当するものが漏出しております。ウラン換算では20個分の物が漏出していると換算されます。
さらに恐るべきことには、これまでの知見で原爆による放射線の残存量と原発から放出されたものの放射線の残存量は、一年に至って原爆が1000分の1程度に低下するのに対して、原発からの放射線汚染物は10分の1程度にしかならない。
つまり、今回の福島原発の問題はチェルノブイリと同様、原爆数10個分に相当する量と、原爆汚染よりもずっと多量の残存物を放出したという事がまず考える前提になります。
そうしますと、我々システム生物学というシステム論的にものを見るやり方でやっているんですが、現行の総量が少ない場合にはある人にかかる濃度だけを見ればいいのです。しかしながら、総量が非常に膨大にありますと、これは粒子です。粒子の拡散は非線形という科学になりまして、我々の流体力学の計算でも最も難しいことになりますが、核燃料というのは要するに砂粒みたいなものが合成樹脂みたいな物の中に埋め込まれています。これがメルトダウンして放出するとなると細かい粒子が沢山放出されるようになります。
そうしたものが出てまいりますと、どういうようなことが起こるかが今回の稲藁の問題です。たとえば、岩手のふじわら町(藤沢町)では稲藁57000ベクレル/kg、宮城県のおおさき17000ベクレル/kg、南相馬市10万6千ベクレル/kg、白河市97000ベクレル/kg、岩手(茨城の高萩市?)64000ベクレル/kgということで、この数字というのは決して同心円上にはいかない。どこでどういうふうに落ちているかはその時の天候、それから、その物質がたとえば水を吸い上げたかどうか。
それで、今回の場合も私は南相馬に毎週末700q行って、東大のアイソトープセンター、現在まで7回の除染をやっておりますが、南相馬に最初に行った時には1台のカウンターしかありません。農林省が通達を出したという3月19日には食料も水もガソリンも尽きようとして、南相馬市長が痛切な訴えをウエブに流したのは広く知られているところであります。
そのような事態の中で通達1枚出しても誰も見る事が出来ないし、誰も知ることができません。稲藁がそのような危険な状態にあるという事は全く農家は認識されていない。農家は飼料を外国から買って、何10万と負担を負って、さらに牛にやる水は実際に自分たちと同じ地下水を与えるようにその日から変えています。 そうすると、我々が見るのは何をやらなければいけないかというと、まず、汚染地で徹底した測定が出来るようにするという事を保証しなくてはいけません。我々が5月下旬に行った時、先ほど申し上げたように1台しか南相馬になかったというけど、実際には米軍から20台の個人線量計がきていました。しかし、その英文の解説書を市役所の教育委員会で分からなくて、我々が行って教えてあげて実際に使いだして初めて20個の測定が出来るようになっている。これが現地の状況です。
そして先程から食品検査と言われていますが、ゲルマニウムカウンターというものではなしに、今日ではもっとイメージングベースの測定器というのが遥かに沢山半導体で開発されています。何故政府はそれを全面的に応用してやろうとして、全国に作るためにお金を使わないのか。
3か月経ってそのような事が全く行われていない事に私は満身の怒りを表明します。
第2番目です。私の専門はいわゆる小渕総理の時から内閣府の抗体医薬品の責任者でして、今日では最先端研究支援というので、30億円をかけて抗体医薬品にアイソトープを付けてガンの治療にやる、すなわち人間の体の中にアイソトープを打ち込むという仕事が私の仕事ですから、内部被曝問題に関して一番必死に研究しております。
そこで内部被曝がどのように起きるかという問題を説明させていただきます。
内部被曝というものの一番大きな問題はガンです。ガンがなぜ起こるかというと、DNAの切断を行います。ただし、ご存じのとおりDNAというのは二重らせんですから、二重らせんの時は非常に安定的です。これが、細胞分裂をする時には二重らせんが一本になって、2倍になり4本になります。この過程のところがものすごく危険です。
そのために、妊婦の胎児、それから幼い子ども、成長期の増殖が盛んな細胞に対しては、放射線障害は非常な危険をもちます。さらに大人においても増殖が盛んな細胞、たとえば放射性物質を与えると髪の毛、それから貧血、それから腸管上皮の、これらはいずれも増殖分裂が盛んな細胞でして、そういうところが放射線障害のイロハになります。
それで私どもが内部に与えた場合に具体的に起こるので知っている事例を上げます。
これは実際には一つの遺伝子の変異ではガンは起こりません。最初の放射線のヒットが起こった後にもう1個の別の要因でガンの変異が起こるという事、これはドライバーミューテーションとかパッセンジャーミューテーションとか、細かい事になりますが、それは参考の文献を後ろに付けてありますのでそれを後で、チェルノブイリの場合やセシウムの場合を挙げてありますのでそれを見ていただきますが。
まず一番有名なのはα線です。プルトニウムを飲んでも大丈夫という東大教授がいるというのを聞いて、私はびっくりしましたが、α線はもっとも危険な物質であります。それはトロトラスト肝障害というので、私ども肝臓医はすごくよく知っております。要するに内部被曝というのは先程から一般的に何ミリシーベルトという形で言われていますが、そういうものは全く意味がありません。
ヨウ素131は甲状腺に集まります。トロトラストは肝臓に集まります。セシウムは尿管上皮、膀胱に集まります。これらの体内の集積点をみなければ、全身をいくらホールボディースキャンやっても全く意味がありません。
トロトラストの場合の、このちょっと小さい数字なんで大きい方は後で見て欲しいんですが。これは実際にトロトラストというのは造影剤でして1890年からドイツで用いられ、1930年ごろからは日本でも用いられましたが、その後20〜30年経つと肝臓ガンが25%から30%に起こるという事がわかってまいりました。 最初のが出てくるまで20年というのは何故かというと、最初にこのトロトラスト、α線核種なんですが、α線は近隣の細胞を傷害します。その時に一番やられるのはP53という遺伝子です。我々は今ゲノム科学というので、人の遺伝子、全部配列を知っていますが、一人の人間と別の人間は大体300万箇所違います。ですから人間同じとしてやるような処理は今日では全く意味がありません。
いわゆるパーソナルライフメディスンというやり方で、放射線の内部障害をみる時もどの遺伝子がやられて、どういう風な変化が起こっているかという事をみることが原則的な考え方として大事です。
トロトラストの場合は第一段階ではP53の遺伝子がやられて、それに次ぐ第二第三の変異が起こるのが20〜30年後かかり、そこで肝臓ガンや白血病が起こってくるという事が証明されております。
次にヨウ素131。これヨウ素はみなさんご存じのとおり甲状腺に集まりますが、甲状腺への集積は成長期の甲状腺形成期が最も特徴的であり小児におこります。
しかしながら1991年に最初ウクライナの学者が「甲状腺がんが多発している」というときに、日本やアメリカの研究者はネイチャーに「これは因果関係が分からない」ということを投稿しております。何故そんな事を言ったかというと、1986年以前のデータがないから統計学的に有意だという事を言えないということです。 しかし、統計学的に有意だという事がわかったのは、先程も長瀧先生からお話しがありましたが、20年後です。20年後に何がわかったかというと、86年から起こったピークが消えたために、これは過去のデータがなくても因果関係があるという事がエビデンス(evidence 証拠・根拠)になったですから、疫学的証明というのは非常に難しくて全部の事例が終わるまで大体証明できないです。
ですから今我々に求められている「子どもを守る」という観点からは全く違った方法が求められます。そこで今行われているのは、ここには国立のバイオアッセイ研究センターという化学物質の効果をみる福島昭治先生という方が、ずっとチェルノブイリの尿路系に集まる物を検討されています。福島先生たちがウクライナの医師と相談、集めて500例以上の、前立腺肥大の時に手術をしますと、膀胱もとれてきます。これをみまして検索したところ、高濃度汚染地区、尿中に6ベクレル/リッターという微量ですが、その地域ではP53の変異が非常に増えていて、しかも増殖性の前ガン状態、我々からみますと、P38というMAPキナーゼとNF-κB(エヌエフ・カッパー・ビー)というシグナルが活性化されているんですが。それによる増殖性の膀胱炎というのが必発でありまして、かなりの率に上皮内のがんができているという事が報告されております。
それで、この量に愕然といたしましたのは福島の母親の母乳から2〜13ベクレル7名で検出されているという事が既に報告されている事であります。
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我々アイソトープ総合センターでは現在まで毎週700キロメートル、大体一回4人ずつの所員を派遣しまして南相馬市の除染に協力しております。南相馬でも起こっている事は全くそうでして、20キロ、30キロという分け方が全然意味がなくて、その幼稚園ごとに細かく測っていかないと全然ダメです。それで現在20キロから30キロ圏にバスをたてて、1700人の子どもが行っていますが、実際には避難、その南相馬で中心地区は海側で学校の7割で比較的線量は低いです。ところが30キロ以遠の飯館村に近い方の学校に、スクールバスで毎日100万円かけて子どもが強制的に移動させられています。このような事態は一刻も早く辞めさせてください。
いま、その一番の障害になっているのは、強制避難でないと補償しない。参議院のこの前の委員会で当時の東電の清水社長と海江田経済産業大臣がそういう答弁を行っていますが、これは分けて下さい。
補償問題とこの線引きの問題と子どもの問題は直ちに分けて下さい。子どもを守るために全力を尽くすことをぜひお願いします。
それからもう一つは現地でやっていますと、除染というものの緊急避難的除染と恒久的除染をはっきり分けて考えていただきたい。
緊急避難的除染を我々もかなりやっております。たとえばここの図表に出ております。この滑り台の下、滑り台の下は小さい子が手をつくところですが、この滑り台に雨水がザーッと流れてきますと毎回濃縮します。右側と左側とズレがあって、片側に集まっていますと、平均線量1μのところだと10μ以上の線量が出てきます。それで、こういうところの除染は緊急にどんどんやらなくてはいけません。
それからさまざまな苔が生えているような雨どいの下、ここも実際に子どもが手をついたりしているところなのですが、そういうところはたとえば高圧洗浄機を持っていって苔を払うと、2μシーベルトが0.5μシーベルトまでになります。だけれども、0.5μシーベルト以下にするのは非常に難しいです。
それは、建物すべて、樹木すべて、地域すべてが汚染されていますと、空間線量として1か所だけ洗っても全体をやる事は非常に難しいです。ですから、除染を本当にやるという時にいったいどれだけの問題がありどれ位のコストがかかるかという事を、イタイイタイ病の一例で挙げますと、カドミウム汚染地域、だいたい3000ヘクタールなんですが、そのうち1500ヘクタールまで現在除染の国費が8000億円投入されております。もし、この1000倍という事になればいったいどのくらいの国費の投入が必要になるのか。

ですから私は4つの事を緊急に提案したいと思います。
第1に国策として、食品、土壌、水を、日本が持っているですね、最新鋭のイメージングなどを用いた機器を用いてもう、半導体のイメージ化は簡単です。イメージ化にして流れ作業にしてシャットしていってやるということの、最新鋭の機器を投入して抜本的に改善して下さい。これは今の日本の科学技術力で全く可能です。
2番目。緊急に子どもの被ばくを減少させるために新しい法律を制定して下さい。私のやっている、現在やっているのはすべて法律違反です。現在の障害防止法では各施設で扱える放射線量、核種などは決められています。東大の27のいろんなセンターを動員して現在南相馬の支援を行っていますが、多くの施設はセシウムの使用権限など得ておりません。車で運搬するのも違反です。しかしながら、お母さんや先生方に高線量の物を渡してくる訳にもいきませんから、今の東大の除染ではすべてのものをドラム缶に詰めて東京に持って帰ってきております。受け入れも法律違反、全て法律違反です。
このような状態を放置しているのは国会の責任であります。全国には例えば国立大学のアイソトープセンターは、ゲルマニウムをはじめ最新鋭の機種を持っているところは沢山あります。そういうところが手足を縛られたままで、どうやって国民の総力を挙げて子どもが守れるのでしょうか。これは国会の完全なる怠慢であります。 第3番目。国策として土壌汚染を除染する技術を民間の力を結集して下さい。これは、たとえば東レだとかクリタだとかさまざまな化学メーカー、千代田テクノとかアトックスというような放射線除去メーカー、それから竹中工務店とか様々なところは、放射線の除染などに対してさまざまなノウハウを持っています。こういうものを結集して現地に直ちに除染研究センターを作って、実際に何10兆円という国費がかかるのを、いまだと利権がらみの公共事業になりかねない危惧を私はすごく持っております。国の財政事情を考えたらそんな余裕は一瞬もありません。どうやって除染を本当にやるか。7万人の人が自宅を離れてさまよっている時に国会は一体何をやっているのですか。
以上です

児玉龍彦さんの参考人意見陳述を踏まえて行われた津田大介(ジャーナリスト)さんとの対談ビデオです。

東京大学アイソトープ総合センター

半減期17年のセシウム137による土壌汚染の除染へむけ同センターニュースVol42 No.1(2011年6月

放射性物質の環境移行研究の新たな展開 報告集(日本原子力研究所)

原発なくそう大田実行委員会